谷崎潤一郎の作品を読むのはこれが初めてであったが、
さすがは文豪、その主人公視点の描写の細やかさや、心境の表現に引き込まれ、
朝から悩まされていた腹部の鈍痛も忘れて一気に読んでしまった。
読書に集中したいのに、鳴り止まない通知が鬱陶しく感じ、iPhoneも床へ投げ捨てた。
私のiPhoneは悪くないのに。あの時は、ごめん。
私は読書は好きだが、展開や表現があまり面白くないとつい流し読みしてしまう。
主人公の心境や、その場の描写なんかはサラッと飛ばし読みし、
展開に関わっていそうなセリフだけ拾って読み進めてしまう。
ところが、この痴人の愛という作品では、表現の一言一句が洗練されていて、
それでいて私のような平凡な人間にも分かりやすい表現であるので、
飛ばし読みするなんて勿体無い。と1ページ1ページ張り付くようにして読み進めた。
一方、話の展開も面白く、そんなじっくり読んでないで早く次のページをめくっておくれと捲し立てる私もいた。
こちらの作品は一度純粋に話を楽しんで読み、
次に文章表現を楽しんで読み、
最後に西洋文化が日本に流入し西洋崇拝が一層増した、また、女性の社会進出が謳われ出した時代背景なんかも考えながらじっくり読むことができる作品だ。
私は文学部出身でもないし、本の考察なんていうのはあまり得意ではないが、それでもそうしてみたいと思わせるような、色々な特徴を持った作品だった。
一体どういう生活を送ればこのような文章が書けるのだろうか。展開としても面白いが、やはりこの文才。羨ましいというのはなんの努力もしていない人間が安易に使ってはいけないだろうが、そう思わずにはいられない。
また、他の作品も読ませていただこうと思う。